2010年5月24日

Primeur 2009


シャトー巡りはお寺巡りに似ている
ボルドーのシャトー(ワイナリー)を訪問しながらそう思いました。というのも、京都の小さな塔頭を回っていると、ふとしたディテールにご住職の趣味を感じとれるのと同様に、ひとつ一つのシャトーの設えや趣味が、まったく異なっているからです。薄暗い荘厳な地下のセラーを当時のままにしているシャトーもあれば、モダンアートギャラリーに改装したシャトー、ディズニーランドのアトラクションさながら照明と演出でスペクタルな空間に甦らせるシャトーなど。同様に、そのワインのスタイルやワイン作りのフィロソフィーも様々で比較するのは楽しいものです。

4月フランス出張中に、ボルドーで五大シャトー含む18シャトーを訪れ、類い希な当たり年と今から期待がふくらむ2009ヴィンテージのワイン(まだ樽で熟成中)を味わう幸運に恵まれました。

2009年のヴィンテージがなぜすばらしいのか?
それはまず恵まれた天候によるそうです。寒い冬の後に訪れた冷涼な春、次第に気温が上がり、8月は好天が続き、十分にポリフェノールを蓄えながら葡萄が熟し、しかし強い日差しに焼きつけられて葡萄がストレスを感じるほど暑くはなく、9月中旬、収穫前に軽く雨が降って葡萄もリフレッシュ。再び好天、昼と夜の温度差もしっかりあり、極めて清潔で健康な果実が収穫できたとか。収穫期間が長いのもこの年の特徴で、さていつ摘もうか?という見極めがポイントのようです。十分に熟して糖度が上がりすぎるとワインのアルコール度数が上がり、ボリューミーだけれど品のないワインになってしまうと早めに収穫するシャトー、品種の特徴を最大限に生かそうと最高の熟度まで辛抱強く待ってから収穫するシャトーなど、その選択は様々。最高の素材(葡萄)が手に入ったら、さあ今度は醸造です。ワイン作りは本当にエキサイティングな仕事だと思います。天からの恵み、代々受け継がれる土地が毎年与えてくれる恵み、人と自然が一体となって生まれるのですから。

初日のテイスティングはシャトーマルゴーから
いつも柵越しにしか写真を撮れなかったあこがれのシャトー。ジロンド河の左岸、カベルネ・ソーヴィニョンが主体の男性的なイメージのワインが多いメドックで「女王」の異名を取るワインです。見事なバランス。樽から引き抜いてきたとは思えない、豊かでしなやかなタンニン。

高級なパフュームを思わす芳醇な香りがずっと持続しています。
85年を初めて飲んだときに“取り込んだばかりの布団みたいな、太陽の香りがする”と記憶している同じく左岸のコス・デス・トゥルネル(サン・テステフ)はさらに凝縮感がありました。


美味しくて、飲みやすくてついごくごく飲んでしまったのがデュクリュ・ボカイユ
昨年末、東京で垂直テイスティングの通訳をさせていただいたムートン・ロートチルドもとてもエレガントで印象深く、工事中ということで向かいのミッション・オーブリオンのチャペルでテイスティングさせていただいたオーブリオンの白は忘れられません。きっともう一生飲めないワインでしょう。

ボルドーでは82年や90年に匹敵する最高のヴィンテージ、リリースされたら私には手の届かない価格になってしまうであろうこれらのワイン、飲み頃のピークを迎えるのは、20年、30年後とも言われます。おすすめはそれより先に楽しめるこれらシャトーのセカンドワイン。主に若い葡萄樹の果実で作られる有名シャトーのセカンドワインは早めに飲み頃がやってくるからです。そしてもちろん本当に偉大なワインはもちろんいつ飲んでも美味しいので20年待たなくても大丈夫です。ということで2009年ボルドー、ぜひ頭の片隅に覚えていてください。