2011年8月8日

Tournant la page


季節はめぐり、大好きな夏も盛りとなるころ、気がついたら
何年も前から家にある名前も知らない植物にこんなすてきな花が咲いていました。風船がはじけるようにパン、パンと咲いた小さな花は肉厚でビロードのよう。数ミリの大きさのひとつひとつの花は、よく見るとバランスの取れたデザインとすてきな色のグラデーション。10日以上咲き続け、私の目を愉しませてくれました。いったい何のために誰がデザインしたのか…それぞれの種に固有の花々、植物のダイバーシティー。大小にかかわらず、自然を前にするとわたしたちは畏れを抱かずにはいられません。


自然のまっただ中に夢を実現してしまった夫婦がいます
三ツ星シェフミッシェル・トロワグロとマリー=ピエール夫妻。「絵に描いたような完璧な田舎」とパリジャンが賞賛するイゲランドという場所は、リヨンの北西、ロワール川の源流に近いブリオネと呼ばれる丘が幾重にも重なって見える地方にあります。動くものといえば、丘の上でのんびり草を食む白いシャロレ牛の群れくらい。その丘のひとつに大きな栗の木と長年打捨てられていた農家を見たとき、二人は改装してジット(Gite=家に暮らすように滞在する宿泊施設)にしたい、と思い始めました。


さらに二人は農家を改装して家族で泊まれるジットを作るにとどまらず、自然に回帰する材料を使いながら、丘の上に張り出す舟、もしくは鳥の巣のようなモダンなカップル用宿泊施設「カドル」(Cadole)を三棟作りました。「トトロの森」からインスピレーションを受けたと言う丸天井に麻のロープを編んだ丸い窓の寝室は何かに守られるような温かさを感じます。


そして目覚めると。冒頭の写真、ベッドの横の小さな丸い窓からは朝もやに照らされる大きな栗の木がよく見えるのです。何もしない贅沢、ゆっくりとただそこに居て時間を味わうためにやってくる場所、それがここ「コリーヌ・デュ・コロンビエ(LaColline du Colombier)」なのです。


農家を改装したジットでもカドル同様に朝食は自分で作ります
近所の農家の生みたて卵、新鮮なフルーツやヨーグルト、バスケットいっぱいの焼きたてのブリオッシュやパン、搾りたてオレンジジュースなどが届けられ、好きなように卵を調理して好きな時間に食べるのです。


あとは、このような籐の長椅子にぺろ〜んと身体をのばして、白いシャロレ牛を眺めるもよし、持って来た本を読むもよし…。悲しいかな日本人の私は、まして仕事で来た私は朝起きてすぐこの贅沢な田舎の時間を享受することなく、タクシーでリヨンに移動というもったいないことを何度かしています。


しかし、食べることは仕事なので忘れるはずがありません
「コリーヌ・デュ・コロンビエ」には家畜小屋を改装したモダンなオープンキッチンのある開放的なレストラン「ル・グラン・クヴェール(Le Grand Couvert)」があるのです。


料理を担当するのは当然のことながら、三ツ星を43年維持する伝説のレストラン「メゾン・トロワグロ」のスタッフですから、味に間違いはありません。プリフィックス・メニューで35ユーロなので地元の方々でいつも満席。予約をしておかないと食べ損ねます。内容はすぐ近くで捕れるこのような立派なザリガニのリゾットや川魚のポシェや、シャロレ牛のカルパッチョやステーキなど野趣味あふれる、しかし洗練された郷土料理ばかり。そして偉大なブルゴーニュのドメーヌのジュネリックPNやブルゴーニュ・ブランのとてもすてきなヴィンテージが手頃な値段でとてもよい状態で楽しめるのが嬉しい。さすが三ツ星メゾンの仕入れだけあります。


そしてもうひとつのごちそうは、レストランの目の前にひろがるこの風景
パリジャンが言うところの「絵に描いたような完璧な田舎」です。
エールフランスの日本語機内誌BON VOYAGE7,8,9月号でも特集(フランス、自然と美食のスローステイ)でも取り上げられ、カドルのリビングルームが表紙になりました。

この季節、エールフランスに乗ってフランスへ行かれる方、ぜひ機内でページをめくってブリオネの田舎風景を味わってみてください。