2008年11月30日

Le 18 novembre, Une journée étoilée



11月18日、服部調理師学校で、
7人のフランス人シェフによるプロのための料理講習会通訳の日。
7人合計でミシュランの星15個になるとか。

星と言えば、
この日11月21日に発売になるミシュランガイド東京2009の記者発表があり、去年同様私のまわりは前夜からそわそわ、わさわさしていました。

集まった人、約100人。
講習会の一番手は三ツ星ピラミッドのアンリ・ルルーシェフ、
2番目はパリのタイユヴァンのアラン・ソリヴェレスシェフ
(彼がまだシャンゼリゼのオテル・ヴェルネにいた頃日本へ招聘して以来の再会です!)。

ソリヴェレスシェフの
「トゥルトー蟹のレムラード」のために生きたままやってきたトゥルトー蟹。まだ元気です。
1.5キロは手に持つとずっしりと重く、硬い甲羅の中にはしっかりと身が詰まっています。丸っこく愛らしい形に、蟹座の私は他の食材にはない愛着を感じました。



午後になって、
ティエリーマルクスシェフが斬新な円錐形のウズラの料理を披露。

レジス・マルコンシェフの弟子で、独立して5年後に二ツ星を獲得し、
昨年MOF(フランス最高職人賞)にもなったクリストフ・ルールシェフの美しい皿に引き続き、カンヌのブリュノ・オジェシェフが登場。
クラシックなフォワグラのテリーヌはほうれん草とアンディーブの3つの食感を楽しむもの。“例えばほうれん草とアンディーブの代わりにピーナツとフレッシュなアプリコットを使ってもいいね”と。さりげなくこういう代案が出るところがうれしいです。
ベテランのジル・トゥルナルドルシェフのタイカレーを思わせるような香り高い真鯛の料理の後、いよいよ三ツ星レジス・マルコンシェフの登場。



キノコの魔術師とも呼ばれるマルコンシェフ。
何年か前にも講習会の通訳をさせていただいたのですが、そのときに小さなモリーユ茸とレシピを頂いて、クレーム・キャラメルを家で作ったのを思い出しました。相変わらず学校の先生のように真面目で穏やかな眼差し。
キノコを前にするとさらに目が輝き、話がとまりません。

北海道の蝦夷鹿(すばらしく美味しい鹿肉! とシェフも絶賛)にセップ茸のプラリネをまぶし、セップ茸のバターでガルニチュールを炒め、セップ茸の香りいぱいのサバイヨンソースを添えました。前夜のガラディナーで披露したばかりの料理だそうですが、デモンストレーションが始まってから思いつきでどんどん変化してゆきます。「もっと美味しくできる」「料理は日々少しずつ変化するもの」私がたくさんのシェフから学んだことを、まさに目の前で実行しているマルコンシェフ…
料理に向かう集中力を隣にいて強く感じました。

午後に発表になったミシュラン東京2009の星の動向で、
昨年9月にお店をオープンされた
下村シェフのEDITION KOJI SHIMOMURAが2つ星を獲得したことがわかると、
すかさず会場にいらした下村シェフへ、
マルコンシェフからFELICITATIONS!(おめでとう!)の一言。

そして、
「あなたの下で働いた人がフランス各地で今シェフとして活躍していますが、彼らに教えたことは何ですか?」という下村シェフからの質問に、
マルコンシェフは
「料理人には2つの成功があることです。
一つはレストランが星を取り有名になり、料理人として輝かしいキャリアを達成する個人的な成功、もう一つはひとりであるいは家族と、または限られたスタッフと毎日お客さまのために料理を作ることに喜びを見いだせること。
決して広く名前を知られることがなくてもそれは料理人としての幸せ、
それも成功であるこということです。」と答えました。

感動のため、一瞬静まる会場…。
こんなすてきなやりとりを訳せさせてもらえるなんて、
通訳冥利に尽きるひとときでした。



18時、講習会終了後ミシュラン東京2009のレセプション会場である表参道ヒルズへやってきました。おめでとう!来年こそは…そんな会話が飛び交う会場で、お互いのガイドブックを手に語り合う二人を発見。一人はマスヒロの東京番付というレストランガイドを出したばかりの山本益博氏、もう一人はミシュランマップ&ガイドディレクターのクリストフ・ドゥレ氏。

ミシュラン東京2008のセレクションをグループで検証された益博氏に対し、

「フードジャーナリズムとは全く異なる独自の調査と評価がミシュランの信条」
と語るドゥレ氏は、
「ある日三ツ星が500軒になっても何の不安もないですね、三ツ星の価値はいつどんな国でも同じ。“ああやっぱり三ツ星だ”と行く人を満足させるはず」と自信たっぷり。

「いろんな価値観があるからこそ楽しい。
ガイドブックは一つじゃだめ。
せめて3つはないと。
トップ3つのガイドすべてで高い評価を受けていたらそのレストランは本物でしょう。」と益博氏。

そういえばNY生まれのザガット東京というガイドもありますね。
この際3つのガイドブックに目を通して、美食都市東京を食べ歩くのも楽しいかもしれません。私自身がミシュランガイド東京に願うことがあるとすれば、写真はなくてもよいのでもっと掲載店を多くして欲しいこと。本場フランス版のようにぶ厚く、そして星無しでも安心して利用できる魅力的なアドレスをたくさん掲載してほしいです。

↑フランスで“ビブ”と呼ばれるミシュランのキャラクター“ビベンダム”も、
日本に来ると“ミシュランマン”に。